東京高等裁判所 平成5年(ネ)2424号 判決 1993年10月28日
控訴人
松本政久
同
松本結佳里
同
松本悦子
同
松本令子
同
松本和之
右法定代理人後見人
辻進
右五名訴訟代理人弁護士
山田俊夫
被控訴人
松本長政
同
久野千鶴子
同
松本定浩
同
石井二三子
同
村越佳子
右五名訴訟代理人弁護士
田代博之
同
塩沢忠和
主文
一 本件控訴を棄却する。
ただし、原判決主文一、二項を以下のとおり改める。
「一 控訴人らは、被控訴人らに対し、原判決添付別紙物件目録(一)記載の土地につき、静岡地方法務局磐田出張所昭和六二年六月二七日受付第九七一三号の、同年二月七日相続を原因とし、控訴人ら、被控訴人ら及び訴外浜松市松江町七七番地松本凰次(登記簿上の氏名 松本鳳次)の持分を各一一分の一とする所有権移転登記を、同日相続を原因とし、被控訴人ら及び同訴外人の持分の割合を各六分の一とする所有権移転登記に更正登記手続をせよ。
二 控訴人らは、被控訴人らに対し、原判決添付別紙物件目録(二)記載の建物につき、静岡地方法務局浜松支局平成二年九月七日受付第三六三三六号の、同年八月一四日売買を原因とし、控訴人ら、被控訴人ら及び訴外浜松市松江町七七番地松本凰次(登記簿上の氏名松本鳳次)の持分を各一一分の一とする所有権移転登記を、同日売買を原因とし、被控訴人ら及び同訴外人の持分の割合を各六分の一とする所有権移転登記に更正登記手続をせよ。」
二 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
一控訴人らは、「一 原判決を取り消す。二 被控訴人らの請求を棄却する。三 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人らは、控訴棄却の判決(ただし、控訴人松本凰次に対する訴えの取下げに伴い、請求の趣旨を主文一項ただし書のように改めた。)を求めた。
二当事者双方の主張は、原判決の「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要」記載のとおりであるから、これを引用する。
三当裁判所も、被控訴人らは本件訴えにつき当事者適格がないとはいえず、また、被控訴人らの請求は理由があると判断するが、その理由は、以下のとおり付加するほか、原判決の「事実及び理由」欄の「第三 判断」記載のとおりであるから、これを引用する。
遺産分割審判事件において審判前の保全処分として遺産管理者が選任された場合には、不在者の財産管理人に関する民法二七条ないし二九条が準用されている(家事審判法一六条)が、遺言執行者の場合のように(民法一〇一三条)、相続人から相続財産の処分権を奪う趣旨の実体法上の規定は置かれていないこと、そもそも不在者の財産管理人が選任されたとしても不在者自身は自己の財産について管理・処分する権限を失わないと解されること(最高裁昭和三七年(オ)第二九一号、同三八年九月三日第三小法廷判決参照)に照らすと、遺産管理者が選任されても、相続人は、相続財産に対する管理・処分権を失わないものと解するのが相当である。もっとも、相続人は、遺産管理者の管理権行使を受忍する法的義務を負うと解されるから、遺産管理者の管理権行使と抵触するような管理権の行使は許されないと解する余地があるが、本件は共有物の保存行為として不実の登記の更正登記手続を求めるものであって、遺産管理者の管理行為と抵触するようなものとは到底解されない。したがって、被控訴人らが本件訴えにつき当事者適格を有することは明らかである。
四よって、原判決は相当で本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、なお、被控訴人らは当審において控訴人松本凰次に対する訴えを取り下げたので、それに伴い原判決主文一、二項を主文のとおり改めることとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 宍戸達德 裁判官 大坪丘 裁判官 福島節男)